血は、つながっては、いなかった。
ぼくが、子犬で、義母は、山羊だった。
でも、義母は、とてもやさしかった。
 
ぼくらは、見世物小屋のかたすみで、くらしていた。
かなり、さむい場所で、
ぼくは、いつも、あたたかい義母に、くっついていた。
 
義母は、くちべたで、めえ~としか、ことばにできなかった。
もちろんぼくも、わんとしか、ことばにできなかった。
 
そんな義母が、ある日、
ギャンブルだけは、やっては、いけないよといった。
ぼくは、こどもで、その意味すら理解できなかった。
 
ぼくは、おとなになった。
言葉も、いくつかはなせるように、なった。
そして、子犬だったのに、ひとに、なってしまった。
 
義母は、老いてしまった。
見世物小屋のなかで、
山羊のまま死んでしまった。
 
ギャンブルに、大負けした日。
おおきな川にそった土手の小道を、
夕陽を、背にして、あるいた。
 
義母のことばを、おもいだしながら、
両目からは、涙がボロボロこぼれてた。
 
それでも、
ギャンブルだけは、やっては、いけないよ。
ギャンブルだけは、やっては、いけないよ。
ギャンブルだけは、やっては、いけないよ。
なんども、なんども、つぶやきながら。