あぁ昔はこんなんじゃなかった 
俺は、この沼で6才のときから 
つり糸をたらしている 
 
およげたんだよ、この沼 
ほら前にみえる山、もっともっと緑がふかくてね 
 
そりゃ生活は苦労したよ 
たいへんだったね 
今の若い人にはなしてもしょうがないんだ 
だからはなさない、はなしてもわからないもの 
たべることは大変さ 
 
でも、なつかしいね 生きていたね なにもかもがね 
山も、水も、土も、空気も、光も、
もちろん人もさ、呼吸してたんだ、みずみずしくね 
 
俺、ずっと、ずっと、つり糸たらすよ
たらしてたらしてたらしつづけるよ 
 
ときどきいろんなひとがきて、さわぐよ
この沼をやれどうしたこうしたといいながら 
さわぐよ、おそらくだめだね、わるいけど本気じゃないもの 
 
俺をふくめて駄目になったね、人間がね。
 
夏の終わりの日差しが背中をさすよ、
かわらないのは、天道様だけだね 
 
魚 まだつれてないんだ
いるのかって、いつかつれるよ 
 
つり糸たらしているといろんなことが 
頭にうかぶね 
 
キミちゃんとよくここに来たね 
夜中にそっと、
キミちゃんかわいかったよ 
体中があつくなるね 
 
いま、ひとりだよ
だからこうして、
毎日ここにくる 
 
さわがないでくれる 
魚が逃げちゃうから 
 
夏もおわりだね。