妄想の海を 
男はおよぐ 
 
かもめは 
空をとぶ 
 
どんよりと 
雲がひろがる 
 
対岸の 
岸では 
たき火の煙 
 
妄想の海を 
男はおよぐ 
 
海面を 
トビウオが 
はねる 
 
イルカも 
はねる 
 
クジラは 
潮をふく 
 
妄想の海を 
男はおよぐ 
 
人魚姫は 
岩陰で 
夢を 
みている 
 
わかめは 
水中で 
ゆれている 
 
妄想の海を 
男はおよぐ 
 
ただ 
時々 
つかれたと 
いって 
立ちおよぎ 
しながら 
息を 
ぜいぜい 
している 
 
妄想の海を 
男はおよぐ 
 
地引網に 
かからないように 
 
蛸壺に 
おちないように 
 
鮫に 
たべられないように 
 
妄想の海を 
男はおよぐ 
 
ぜいぜいの 
息をしたことなど 
おくびにもださず 
 
妄想の海 
妄想の海 
 
男は 
妄想の海しか 
およげない