真空管が あたたまる 
時間が とても まちどうしい 
 
囲炉裏では 鉄瓶が 
蒸気を しずかに 
はきだしている 
 
家族は それぞれ 
手をうごかして 
生活用品を 
つくっている 
 
もうすぐ 
ラジオから 
みっつのうたが ながれる 
 
生活空間にはない 
不思議な 音の世界 
 
にわとり小屋のにわとりが 
夢でもみたのか 奇声をあげた 
 
家族は ラジオを 
聴き入っている 
 
電波が悪いので 
音は ときどき 
とぎれる 
 
ぼくのなかの 
記憶は 
正確かどうか 
わからない 
 
短編の 
動画のように 
こころに 
のこっている 
 
ラジオを 囲んだ 
家庭があった 
 
家庭のない 
家族の時代を 
いきている 
今の時代の 
荒涼とした 
風景の中で 
なくしたものは 
うつくしく かがやく